中国向け越境EC、成功までの3つの壁とは?をインタビュー
当社では2010年から業界内で最初に「Alipay」の同時提供を開始し、多くの反響とご相談をいただいてきました。しかし注目度は高いものの様々な障壁があるようで、なかなか形にならない事が多いのがこの「中国向けの越境EC」だったりもします。
そんな中、中国向けECをそんな中国向けの越境ECを既に7年運用されている加盟店様にインタビューに応じていただけましたのでご紹介していきます。
- CLIENT
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株式会社スコア・ジャパン
インタビュイー
代表取締役 大沢 理さま
本社所在地
〒136-0071 東京都江東区亀戸1-1-13
事業内容
国際宅配事業 航空運送代理店業 通関業 保税業
Webサイト
https://www.scorejp.com/
※本記事は2019年以前に書かれたものです。また、掲載内容はインタビュー当時の情報に基づいています。
中国向けビジネスは17年前から
中国向けビジネスを始めたきっかけは?
以前経営していた会社で、馬喰町にある問屋さんに商品を卸していました。17年前の話ですが、既にその頃から馬喰町には、香港や台湾から沢山のバイヤーの方が商品を買い付けに来ていました。ある時、問屋さんから「その方々へ、何か一緒に便宜供与ができないだろうか?」というご相談をいただき、商品の運送をメインにホテルの予約、飛行機のチケット手配などを行うようになり、徐々にそれが事業になっていきました。
現在も、日本のECサイトで買ったものを中国に転送するサービス「我就是日本代购」と越境ECの「中国購買王」が、事業の中核です。
なるほど、運送がバックボーンなのですね。では運送に因んで、ここ最近の通関事情を伺えたら。
今、非常に通関が難しいのはアロエです。アロエが成分として含まれる化粧品など。それから電池が入っている商品、例えば電動歯ブラシなどです。アロエはワシントン条約が原因で非常に厳く、電池は通関が難しいわけではなく、航空会社が危険物とみなし、量を制限しています。
もちろん当たり前に通関できないものは沢山あるのですが、特にこの2つが、越境ECで面倒な商品と捉えています。
あの「売れ筋商品」が無いのは?
「中国購買王」の商品ラインナップを見ると、私達がよく「売れ筋・大人気」と聞く家電品やベビー関連商品がありません。その理由は?
オムツと粉ミルクは、まさに中国で売れている二代トップスターです。しかしこれは既に大量かつ安く流通していて、利益を得るのが難しいのです。
越境ECという分野では、中国の方が経営する日本企業「だけ」が成功しているというのが現状だと感じています。そういった企業の社長さん達と情報交換をする 事もあるのですが、皆さん口を揃えて「需要があるから(オムツや粉ミルクを)売っているくらいで、そこで儲けようとは思っていない」と仰います。
それだけ力のあるプレイヤーが大勢いて、熾烈な価格競争も起きているところに参入するのは賢明でないというのが、当社が取り扱わない理由です。
すでに人気がある分野には、参入の旨味がない訳ですね。
そうです。前述の「中国の方が経営する日本企業」でも、独占代理権を獲得できる新しい商材を見つけて、「日本にいる中国の方」から「中国にいる中国の方」へ発信していくという手法にシフトしているようです。
市場が大きい分販売事業者の数も多く競争も激しく、簡単に成功できるようなところではありません。当社も、まだ事業として成り立つ程の手応えは得られていません(苦笑)。
これまで6年間やってきて「日本の企業が参入しても上手くいかない」という話や「撤退した」という話はよく聞くのですが、大きく分けて3つの理由があり、それらが「壁」になっているのだと考えています。
POINT:中国越境ECの壁その1 「ブランドの認知」
例えば無印良品やユニクロといった「既に中国に出店し、充分認知されている日本のブランド」のネットショップであれば、売れていると思います。
たとえ「日本では誰もが知っているようなブランド」であっても、中国では殆ど認知されていないものがほとんどで、いくらECサイトを作ってマーケティングに注力したとしても、軌道に乗せるのは容易ではなく、既にモールとして多くのユーザーを抱える天猫(Tmall)や、京東(ジンドン)に出品したとしても難しいと思います。おそらく、中国の方の購買行動は、日本と大きく違うからです。
例えば中国大変人気のある「とある日本メーカーの目薬」があるのですが、中国の方はまさに「その銘柄だけ」しか買いません。
日本の目薬全般が注目されているとありがたいのですが、ピンポイントで「それだけ」しか買わない。まさに「指名買い」ばかりで「出合い頭買い」がほとんどない印象です。
日本と同じ戦略は使えない中国EC
この「強烈な指名買い傾向」の背景は恐らく口コミにあって、例えば誰かが微博(ウェイボー。編注:中国版Twitter)で「この目薬が凄く気持ちいい!」と呟いた事から火がついて、そこに皆さん集中するのだと推測します。
実際に中国からの訪日客が多く訪れるドラッグストアを見に行っても、まさに特定銘柄だけが品薄で、他はそれほど売れていない様子です。そういった「既に人気が出ているもの」をリーズナブルな値段で売れば、ある程度売れるのでしょうが、実は他にも重要な要素があるのです。
ここからは、実際に成功している中国向け販売のビジネスを例として説明していきましょう。
中国向けビジネスで成功している企業とは?
実は、本当に成功しているのは越境ECではなく「代客購買」。日本語で分かりやすく言うと「代理購買」というモデルでばかりです。その多くは、中国から日本に留学し、卒業して会社を興された方が手掛けています。
彼らは元々、親戚や友達が中国にいらっしゃり、そこから口コミでどんどんネットワークを広げていって、携帯電話に代理購買の注文がバンバン入ってくるそうです。
恐らく日本と違い、コミュニティ意識が非常に強く、本当に信用できる、それも密にコミュニケーションを取れるルートからしか、モノを買わないのではないかと、私は捉えています。
単にネットでモノを安く売るというだけでは、まず信用が得られないといいますか。
POINT:中国越境ECの壁その2 「信頼の獲得」
中国の方は、ネット上だけの希薄な情報だけでは、事業者やその従業員を(日本人同士の場合と比べて)信用しないのだと考えています。
例えば中国内に「世界的に有名なファッションブランド」の正規販売店が出来たとします。
そのブランドのことは有名なので信用しているが「そこの従業員まで信用できるのか?」というと、どうやらそうではなく「ひょっとしたら、従業員が偽物とすり替えているのでは?」と疑われ、それほど売れないという事もあるそうで、そのような事件も報道されています。
そんな背景もあり、ブランド品は「偽物とのすり替えは無いだろう」と思える香港や日本にやって来て買う…という流れができたのだと考えています。
信頼関係を作るには、やはり相互に密なコミュニケーションが取れて「この人は確実に本物を送ってくれる」という実績が積み重なり、そこから口コミが徐々に広がって、そこから沢山のモノが売れるようになっていく…
それが、ここ最近「代理購買」ビジネスが支持されている理由だと思います。
他の出店モデルはどうか?
そういえば、一時は天猫(Tmall)の出品代行というモデルも注目されていました。そちらの成功例は聞きますか?
よく聞く話ではありますが、どれだけいいものを、安く天猫に出しても「それだけ」で売れるという話は聞きません。先ほどの話の通り、出品者が信頼を獲得するところまで辿りつくのが難しいだと思いますね。
コミュニティをなかなか築けないと。その辺りが、Alipayなどの決済アプリにも「SNSやメッセンジャーの機能が欠かせない」と言われる理由なのでしょうね。
「コミュニケーション+送金」というものが、まさに今Fitech(フィンテック)と呼ばれる領域のプレイヤー達がこぞってやろうとしている事です。Alipayはまさに先駆者ですね!
現地企業とのマーケティング競争は?
我々マーケティング領域の人間からすると「マーケティングやブランディングの施策次第で、まだチャンスはあるのでは?」と考えてしまいますが。
確かに「中国市場でモノが売れる」ということは、多くの日本企業の共通認識だと思います。
しかし、日本製品を中国で認知させるためには、まずメーカーが中国内で長期にわたり継続的に宣伝して、ブランドイメージを浸透させる必要があり、それには何十億円という金額が必要だと思います。
それをメーカーではなく、販売専門の事業者がECサイト(ネットショップ)に対して同じ規模の投資ができるかというと、なかなか難しいのではないでしょうか。
それこそ、アリババや京東(ジンドン)が日々ものすごい金額で宣伝活動をしていて、それらと競合する訳ですから、普通のブランディングやマーケティングをやっていたのでは、とても太刀打ちできないと思います。
確かに「日本の倍は広告費がかかる」とういう話も聞きますね。
日本でも「いちネットショップ」と「Amazonや楽天などの巨大モール」の関係性に置き換えてメージすると分かりやすいですね。
辿り着いた3つの結論
ここで当社の「中国購買王」に話を戻しますが、商材は日本の書籍がメインで、それでこそ成り立っている部分があります。
中国で日本の書籍名を検索すると、Amazon(編注:amazon.cn=中国Amazon)か、中国購買王かのいずれかが表示されるような状態です。
Amazonは到着が早いのですが、実は送料が高いのです。対して、中国購買王は到着がやや遅いですが、その分送料を安くしており「待てるなら、中国購買王の方が得」というように上手く住み分けができています。
もう一つ、手応えを感じているのが「お土産や特産品のリオーダー(再注文)サイト」です。
先日オープンした沖縄ゲートウェイがそうなのですが、沖縄は中国の方にも非常に人気のある観光地で、週に5~6000人が訪れます。お土産も沢山あるのですが、これを中国の方が帰国後にリオーダーしようと思っても、全く同じものをネットで探して買うのは難しいのです。
公式のリオーダーショップがありませんでしたし、実際に沖縄の企業さんには、中国語でFAXやメールがメーカーにちらほら届くようで、ニーズは確実にある事は分かっているのですが、対応できるところは殆どありませんでした。それなら我々がやろうと。
店頭に中国のチラシを置いていただき、そこからサイトへのアクセスを案内しているのですが、実はそこで商品が売れても、お店さんやメーカーさんから手数料は一切いただかず、配送を当社にお任せいただきます。
従来からあった「手数料モデル」のビジネスでは、販売者さんの負担が大きく、長い間根気強く続けていくことが難しいのではないかと考え、当社は販売の手数料は一切いただいていません。おかげ様で「費用をかけず、リオーダーが拾えるなら!」と、既に沢山の企業様から出品いただいています。
最後が、まさに今回お話しした「代客購買」というモデルで、霓虹代購というサイトをこの度オープンしました。
こちらは、代理購買できるエージェントを当社が用意し、十分なコミュニケーション機能を持たせ、日本の商品を当社の運送サービスを使い、中国の方からの代客購買を受け付けます。
物流とマーケティングという、特に中国向けの越境ECで課題になりがちな要素をクリアしたサービスですので、中国の消費者の方にも、日本からものを売りたい企業様にも、気軽にご利用いただけるのではと期待しています。
筆者による総まとめ:モノよりも「ヒト・コト」
今年の春節でも、モノの爆買いよりも「医療、健康、美容、芸術鑑賞、グルメ、スポーツ、学習」といった「コト消費」を目的とした訪日客の増加がニュースになっていました。これは中国の方だけでなく、日本の消費者にも同時に起きている流れです。
体験という「コト」と、それに根付いた「ヒト同士の信用」に得にシビアなのが、中国の消費傾向であると、今回の取材で強く実感できました。
これから中国市場にアプローチしたいと考えているメーカーさんや小売店さんは、まずECサイトを立ち上げようとするのではなく、訪日時の「コト消費」でまず体験してもらい、リオーダーから始めて「需要はどれほどか?」という事を見てみたり、代客(代理)購買へ販売委託するなどしてリサーチするという事も視野に入れると良いのではないでしょうか。
今後も中国向けビジネスの動向は特に注力して追っていきます。