中国インバウンド客のキホン

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はじめに

 中国――千年単位で日本と親交があり、首都同士なら飛行機で片道4時間もあれば到着するご近所さん。しかし、歩んできた歴史や社会体制の違いによって、同じアジアであってもお互い全く異なる価値観を抱いています。

 私たちも海外を訪れた時、慣れない土地の文化に戸惑うことがあります。これは文化がおおむね統一された島国ですくすく育った日本人だから、というわけではなく、世界中の誰だって経験しうるものです。そしてそれは、中国からのお客様も例外ではありません。
 「郷に入っては郷に従え」とはいうものの、一週間程度の旅行期間でなじめというのも難しい話。お客様に最低限知っていてほしいことというのはもちろんありますが、出迎える私たちの方が知っていることで避けられるトラブルも存在します。

 ということで、「UP College」今回のテーマは、「中国インバウンド客のキホン」。

 今もっとも日本への訪問人数が多い国「中国」を知って、もてなす側も訪れる側も気持ちよく過ごせる空間づくりのヒントにしていきましょう!

“爆買い”は面子の象徴

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「職場の人に旅行のこと話しちゃったし、お土産買っていかなきゃなあ」
 こんな気遣い、身に覚えはありませんか?

  私たち日本人も、旅行をすれば大抵はお土産と一緒に帰ってきます。そしてそこにはひとつかふたつ、場合によっては自分用のものよりも多く、家族や友人、職場といった自分のコミュニティのために購入すると思います。
 この点は、中国のお客様だって同じに違いない。そう思ったあなたは、半分正解です。
 確かに、彼らは自分以外の誰かのためにお土産を買って帰ります。しかし、その行動の目的は日本人よりもずっと深いのです。

 かつて中国の関税制度が厳格化される前、中国インバウンド客は高額な品物を“爆買い”していました。そして今でもドラッグストアなどで日用品を買うとき、中国インバウンド客は一度に大量の商品を“爆買い”します。もちろん、全部自分で使うのではありません。家族や友人から頼まれたお使いに応え、また顔見知りに「これは日本からのお土産だよ」と配り、面子を保つのです。

 面子、という概念は、中国インバウンド客を迎え入れるうえで知っておくべき独特の考え方です。日本にもないわけではありませんが、お土産を渡すときに「これで面子が保たれた」とはあまり考えないですよね。どちらかというと、「休んでいた分のお礼」とか「みんなが買ってくるから」といった、波風立てないようにする気遣いの意味合いが強いと思います。しかし中国インバウンド客にとっては「頼みごとに人情を見せて恩を送り、関係の強化を行う」あるいは、「顔見知りに話題性やブランド力のある商品を買っていくことで、自らの社会的地位を証明・補強する、承認を求める」という駆け引きの要素が強いのです。

 少し前までは「高級ブランド」が面子の勲章だった中国。これが今は「SNSで流行ったもの」に変わりつつあります。中国インバウンド客の購買欲を刺激するなら、中国のSNS「微信(ウェイシン:WeChat)」「微博(ウェイボー:weibo.com)」などでの情報発信・収集が効果的かもしれません。

「中国人の好きなもの」とは?

 ここからは、当社で開催したセミナー「中国人観光客の財布を開く方法」でご登壇いただいたすみれナレッジ代表・岡部佳子氏による著作『中国人観光客の財布を開く80の方法』から、中国インバウンド客が一般的に好むと言われているモノ・コトを引用してご紹介します。
 全員に絶対当てはまるものではありませんが、これらを取り入れることで喜んでもらえる可能性も広がります。

赤色が好き

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中国人が好む色はダントツで赤です。それは好き嫌いというより、縁起がいい色だから。(『中国人観光客の財布を開く80の方法』p54)

 

 これはなんとなくご存じだったり、気づいていたりする方も多いのではないでしょうか?現代中国において赤はもっぱら良い意味合いを持って使われており、例えば中国語でお祝い金は「红(紅)包」と、慶事は「红事」と言います。また、結婚式に新婦がお色直しで着る伝統的なチャイナドレスには赤を選ぶことが多く、春節の飾り物も赤を基調に金で飾られたものが大半です。
 ただし、少数民族はこの限りではありません。

「8」が好き

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「8」は中国人も一番好きな数字です。理由はお金持ちになるという意味の「发财」の「发」の発音と似ているからです。(『中国人観光客の財布を開く80の方法』p56)

 

 日本でも8は漢数字の形から末広がりを指したり、八百万など「多くのもの」を指したりと縁起のいい数字ですね。中国で、「8」は日本以上に愛されている数字です。これは、上記の引用にある通り「8」の発音が「发(発)(発展する、財を成すなどの意)」と似ているからです。北京五輪の開催日時が8月8日午後8時8分だったのはこのためです。他にもナンバープレートや電話番号で8の連番が高値で取引されるなど、中国での人気がうかがえます。
 一方で、「4」は縁起の悪い数字。これは日本と同じく「死」と発音が同じだからです。 こういった好みは無意識に表に出るもの。商品やサービスにまつわる数字を8にしてみると、「なんとなく8だし」という理由で選んでもらえる確率が上がるかもしれません。

おまけが好き

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中国の小売店でよく使われているサービスに、「买一送一」というものがあります。(中略)中国人は、こういったお得感が大好きです。(『中国人観光客の財布を開く80の方法』p44)

 

 买一送一、という文言は、中国で買い物をしていれば簡単に発見できます。意味は「一つ買ったら、一つ無料」。买二送一なら二個買うと一つおまけ、といった具合です。
 これなら、その場その場でよりお得感を味わいながら買い物ができますよね。あまり大きなものだとかえってかさばってしまいますが、小さな商品を取り扱っているお店では、多く買ったら「おまけ」がつくようにしておくと、喜んでもらえるかもしれません。

温かい料理が好き、冷たい料理が嫌い

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中国ではもともと「冷たいものを飲むと死ぬ」と言われてきました。(中略)生水が飲めないという衛生上の理由もあり、冷たい飲み物を避けることは理にかなっているのです。(『中国人観光客の財布を開く80の方法』p78)

 

 日本で食べる中華料理を思い出してみると、そういえば冷たい食べ物ってないな~と思いませんか? すべてしっかりと火が通り、やけどしそうなほど熱々で提供されることもあります。筆者が飲食店で働いていた時も、中国人のお客様は必ず「ソフトドリンクは氷なし」「水ではなく白湯」でした。

 夏休みで日本に遊びに来た中国人のお客様にはひと言、「お湯とお水どちらがいいですか?」と聞いてあげると、気遣いを感じてもらえるでしょう。夏ですから、必ずしもお湯を選ぶとは限りませんが、冷房が効いているお店などでは喜ばれるかもしれません。

引用元:『中国人観光客の財布を開く80の方法』岡部佳子、新潮社、2017

おわりに:これからの「中国インバウンド客」とは?

 中国インバウンド客、と聞くと、いいイメージより悪いイメージが先行するかもしれません。しかし先述のSNSの広まりによって、「日本と中国の文化やマナーは大きく異なっている部分がある」ということを比較的知ってもらいやすくなってきています。
 特に若い世代は日本の最新情報をキャッチしやすく、加えて団体旅行より個人旅行を選ぶ傾向にあります。かつてのように「団体で押し寄せてきて自分たちの常識で楽しんでいく」といった悪いイメージは、どんどん色あせていくのではないでしょうか。
 従来のイメージで中国インバウンド客を敬遠している皆さんにも、ぜひ、ちょっとだけ見る目を優しくして、不慣れな旅行客を温かく見守っていただければと思います。

※このコラムは岡部佳子著『中国人観光客の財布を開く80の方法(新潮社、2017)』と,
同氏に当社で開催いただいたセミナーを参考に作成しています。
岡部佳子氏に関する情報はこちら

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筆者プロフィール

teatime

広報担当 無糖ティータイム

今年度の新卒のひとりだが、社長に「5年目かと思った」メンター社員に「1年目に見えない」と言われ、自分でも「もしかして気づいていないだけで3年目なのかもしれない」と思い始めている。

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