日本の越境ECの現状は?始めるうえでの障壁と成功事例もご紹介!

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はじめに

「越境EC」とは、日本に拠点を置く販売者が、アメリカや中国など海外の消費者向けに、オンラインで取扱商品を販売することです。やり方は色々ありますが、一般的なものとしては、
①現地のマーケット(日本でいう楽天やYahoo!ショッピングなど)に出店する
②自社サイトをグローバル対応にする
③現地法人を置く
などのやり方が存在し、それぞれに長所と短所が存在します。
さて、今回はそんな越境ECへの日本全体での取り組み状況と、ボトルネックとなるポイント、そして成功事例についてをご紹介します。

対中・米の売上総額と傾向

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まずは、越境BtoC-EC市場最大手である中国(シェア55.8%)・アメリカ(17.0%)における「売り手」としての日本の現状を見ていきましょう。総務省の発表によると、2018年度の日本から各国への売上額は、中国市場で1兆5,345億円、アメリカ市場では8,238億円です。アメリカの中国市場での売り上げ1兆7,278億円・中国のアメリカ市場での売上5,683億円と比較しても、引けを取りません。
また、各国における「越境ECでの購入先」の調査によると、中国では越境EC利用者の58%が日本から購入しており、購入先トップとなっています(2019年・バイドゥ調べ)。一方アメリカでは、越境 EC による商品 購入先国第1位は中国となっています。また、中国では越境ECで重視する項目として「製品の信頼性」を挙げていますが、アメリカにおけるECサイト利用理由第1位は「送料無料であること」が挙げられています。
つまり、中国では主に製品自体の品質へ期待を持っており、「自国では変えない良いものを信頼できるサイトで購入する」傾向があるのに対し、アメリカは値段に期待を持っており、Amazonやクリック・アンド・コレクト(ECサイトで注文し近くのお店で無料受取)を利用することで「海外製品を少しでも安い方法で購入する」傾向があります。この違いは、覚えておいて損はありません。

インバウンド関連業者は今後の展開をどう見ている?

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さて、では日本企業が各国での越境ECに取り組む課題には、どんなものがあるでしょうか。
2016年にJETROが越境ECを行っている企業・意欲のある企業に対して実施したアンケートによると、課題としては以下のようなものが挙げられています。

①「決済システムの信頼性(25.2%)」
②「商品配送にかかるリスク(24.2%)」
③「必要な人員の不足(21.1%)」
④「現地語への対応(21.0%)」
⑤「制度や規制に関する情報不足(21.0%)」
⑥「物流コストが高い(21.4%)」

第1位の「決済システムの信頼性」については、特にアジア圏において現地企業への信用や、日本では見ないAlipayなどの決済システムに対する不安が、そのまま越境ECへのリスクにつながっていると取れます。
また、第2位の「商品配送にかかるリスク」で考えられるのは、各国の物流インフラが本当にきちんと商品の品質を落とさずに配送してくれるのか? という懸念です。実際に「商品の破損・紛失が起きた」といったトラブルも発生しているようです。

こういったJETROのアンケートや総務省の調査から推察すると、日本企業が越境ECに取り組むうえでのボトルネックは、大きく分けて3つあります。

①マーケティング
出店方法問わず避けては通れない現地の言語への対応や、各国のEC市場に関する情報の不足、適切な価格設定と利益のバランス確保、現地の人々の生活習慣や文化に合わせたプロモーションとターゲティングの難しさ、といった課題が挙げられます。

②決済
AlipayやWeChat Pay、JKOPAYなど現地独自の決済方法への対応、国によって異なる複数の決済サービスの管理、クレジットカード不正利用が起きない安全な決済手段の確保といった課題が挙げられます。

③現地ルール・インフラへの適応
各国の税関制度の把握、制度変更や税率改定への対処、送り状など国ごとに違う必要な情報の管理、品質が悪く信用度の低いEMS(郵便事業者による国際スピード郵便)を利用するか否か、といった課題が挙げられます。

先の話にあったように、日本からの越境ECで特にニーズが見込めるのは、中国です。しかし、中国には上記3点に加えて独自のルールや日本とは異なる社会問題が存在し、それに苦慮する日本企業が多い、というのが現状です。
・中国はグレートファイアウォールがあるため、勝手のわかっているSNSが使えない。また、自社サイトが検閲で突然NG判定されてしまい、閲覧不可になるリスクがある。
・偽物が横行しており、販売元が責任を取らなければならない可能性がある。
などが、その一例です。

中国における越境ECの手法としては、アリババグループの越境ECマーケット「考拉海购」や「天猫国際」、京東グループの越境ECマーケット「京東国際」への出店※、もっと腰を据えて取り組む企業であれば、現地法人を設立して中国国内企業向けのECモールに出店するなどの方法が主流です。また、近年ではAlipayやWeChat Payの中にある「ミニアプリ」を利用して商品販売を行うパターンもあるようです。

※出店にあたってはそれぞれのマーケットごとに基準があり、誰もが気軽に参加できるわけではないのが現状です。

成功事例:ポイントは「日本ならでは」

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このように、各国からのニーズと大きな市場がありながら、多くのボトルネックが存在する越境EC。しかし、そんな中でも自社サイトでの越境ECを成功させている企業が存在します。

まずは、日本の職人による伝統工芸品を取り扱う「A-janaika Japan」。英語・フランス語・繫体中国語・簡体中国語・アラビア語に対応し、日本語版サイトはありません。
神奈川県鎌倉市を拠点に置く株式会社AJJが運営しており、包丁や化粧筆といった実用品から、甲冑や日本刀などの美術品、オーダーメイドの着物まで幅広く取り扱っています。アメリカ・中国・東南アジア・ヨーロッパなど世界各国から注文が来ているようです。

大きなポイントとしては、
・どの国からでも100USドル以上の注文で送料無料
・配送方法は日本郵便(EMS)、UPS/FedEx(民間物流サービス)の3種類を用意
・支払方法はPayPalを使用
です。

日本製というブランドを前面に押し出し、「日本の伝統工芸を世界に発信し、職人を支える」というコンセプトを丁寧に説明していることで、「品質の保証された日本の工芸品・美術品を購入したい」というニーズに応えています。海外で考えられている日本のイメージを大切にしながら、定期的に現地調査も行うなど、精力的なマーケティング・プロモーションも行っています。

そしてもうひとつの事例が、日本のアニメ・漫画・ゲーム関連商品を販売している「Tokyo Otaku Mode」です。対応言語は英語のみですが、フィギュア・コスプレ衣装といったカテゴリ分けだけではなく、売れ筋や流行の作品別で商品を探すこともできるため、より多くの人が欲しいものをすぐに見つけられるデザインといえます。

こちらのサイトのポイントとしては、
・有料制のVIP会員サービス「TOM PREMIUM」による割引や漫画チケットなどの配布
・商品販売だけでなく、キャラクターイラストやグッズ・コスプレの写真を共有可能
・支払方法はPayPal、Amazon Payments、クレジットカードの3種類
です。

A-janaika japanとは異なり、送料無料といった一律のサービスがない代わりに、有料制の会員サービスに加入することで大幅な割引やポイント還元など多数の特典が受けられるようになっています。また、ファン同士の交流の場や関連ニュースの配信などを設けており、単なるECサイトに留まらない運営を行っているのも特徴的です。継続的にTokyo Otaku Modeでグッズ購入を行ってくれるファン・リピーターを意識した作りになっています。

おわりに

コロナ禍で訪日インバウンド客が見込めない中、日本製品や日本の文化に触れられる製品を海外の人が手に入れる方法は、自国のショップかインターネット購入しかありません。紹介したようにボトルネックのある販売方法ではあるものの、越境ECサイトの立ち上げや支払方法の一本化などをサポート・代行するサービスも存在します。それらをうまく活用してもっと積極的な対外販路を獲得することが、今の不景気への対抗手段にもなり得ます。
先行事例を参考にしながら、越境ECによってより多くの人々に商品が届けられるよう、まずはどの手法が一番適しているか検討してみるのはいかがでしょうか?

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筆者プロフィール

teatime

広報担当 無糖ティータイム

入社2年目に突入。現在はコラム「UP College」を中心にWebサイトのライティング、オフラインでの配布物作成などを行っている。趣味は旅行で、アジア圏ではタイ・ベトナム・台湾を訪問済み。コロナが収束した暁には、キャラバン隊へ参加してシルクロードを横断する予定。

最近の出来事:気晴らしに映画を観に行き、前後左右の座席が空いたソーシャルディスタンス仕様の観覧を体験してきました。応援上映だと寂しいですが、普通に観る分にはいつもより集中できますね。