省人化、まずはどこから減らすのか

shojinka

はじめに

「サービス業はブラック」とまことしやかにささやかれるようになったのは、いったいいつからの事でしょう? 最近も、とある企業ドキュメンタリー番組での特集をきっかけに「ブラックすぎる」「パワハラだ」「なんの解決にもなってない」と批判を受け、SNSで大炎上した飲食チェーンがありました。皆さんも、記憶に新しいかと思います。

農林水産省によると、2018年2月の時点で62%の小売業を営む企業が「人手不足だ」と回答。また飲食サービス業は2018年3月の時点で欠員率が小売業の2倍を記録し、パート労働者の不足が深刻化しています。

これらの業種に代表的な「低賃金長時間労働」を解消するべく、国は働き方改革を推進していますが、利益率やサービスの質を下げたくない店舗側の思いや、安さや利便性に慣れきった顧客側の事情など、様々な理由でうまくいっていないのが現状です。

しかし、「一人が倍働けばいい」という根性論も、今の世の中では火種になるナンセンスな考え方。

では、どうすればいいのか?

この鍵を握るのが、冒頭で述べた「省人化」です。すでに人材が簡単な補充ができるものではなくなっている今、どこかで工夫をして「少ない人で必要なサービスを提供する」ことが大切です。

今回は「省人化、まずはどこから減らすのか」をテーマに、筆者が自由な考察をしていきたいと思います。

段々人の手を離れているのは、どの店にもあるあの仕事

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「完全省人化」には、いったい何が必要でしょうか? 

省人化する、といっても、単純に人を減らしたのでは意味がありません。その分残った人の仕事が増えるのは、簡単に想像できますよね。少ない人員が疲弊し、結果的にサービスが回らなくなれば、お店を畳むことになるかもしれません。

これを回避しつつ省人化する確実な方法は、人を減らした分だけ仕事を肩代わりしてくれる仕組みを導入することです。ですが、全ての業務を機械化するのは、決して現実的ではありません。では、いったいどこから手をつければいいのでしょう。

種類・形態を問わず多くのサービス業が導入しているのは、レジの自動化です。「会計」という広い視野で見れば、券売機もセルフレジに近いですね。「店員を介さない支払」は、恐らく多くの人が体験しているのではないでしょうか?

要は、お金のやり取りをする場所へ店員さんをわざわざ用意しなくても良い。これで、お客さんのタイミングに振り回されることが減り、一定のペース・少人数でお店を効率よく回せます。

しかし、「レジに人がいないと機械的な印象があって冷たい気がする」という感覚を持つ方もいらっしゃると思います。例えば家族経営の飲食店など「店員さんにも味があるお店」や、ホテルのフロントやアミューズメントパークのショップ店員といった「レジ担当の人も含めてサービスとして計算しているお店」であれば、レジの省人化が必ずしも売り上げをよくするとは限りません。

しかし、逆に言えばこれらの店は、大抵レジに関わる店員が相当経験値を積んでいるか、アルバイトの教育に力を入れる余裕がある店です。

慢性的な人手不足でアルバイトの入れ替わりも激しいようなお店が、少ない人数でお客さんのニーズを満たさなければならない時、やはり真っ先に自動化されるのはレジである、と言えるでしょう。

レジ業務はサービス業で一番「ホスピタリティ」が活かしにくい場所

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一般的なレジ業務に求められるホスピタリティとは、いったいなんでしょう?

なによりも第一に、正確であることですよね。お会計を間違えると、お店もお客さんも困ります。では、次に来るのは? 筆者は、スムーズであることだと考えます。

レジ担当の店員がもたついた分だけ、お客さんの時間は奪われていきます。しかも、お会計は好きなものを選んだりお腹を満たしたりした後に行われるのが一般的です。極端に言えばお客さんはもう「お店に用はない」ため、人によっては小さなイライラが膨らんでいくかしれません。二番目、三番目に待っているお客さんはさらに待たされ、列を見たレジ担当者が余計に焦る悪循環が生まれます。

影響があるのはレジ前だけではありません。レジを任される人がレジ以外の業務も担っていた場合、その人がレジにつきっきりの間は他がひとり足りない状態となります。残りの店員は、さらにせわしなく業務を回さなくてはなりません。しかし、慌てれば慌てるほどミスをする確率が増えるのが人間の常。結果、こちらも悪循環に陥ってしまいます。

レジでの接客が無駄、と言いたいわけではありません。店員さんに笑顔や丁寧な対応に、お客さんは良い印象を持つでしょう。しかし、レジ業務の本当の使命はそこではなく、正確にテンポよく会計を終わらせることです。ここをクリアできて、初めて接客が活きるのです。いくらニコニコしていても、お釣りが間違っていたり作業をだらだらと行っていたりすれば、お客さんの満足にはつながりません。

つまり、レジ業務は接客業務の中で最も「人間らしさ」があだとなる業務です。

だったら、ここはいっそ自動化してしまったほうが、結果的にお客さんの満足につながりやすいように思えます。レジ対応をなくす代わりに、商品の質や機械が真似できない接客でお客さんの心をぐっとつかむ方が、総合的に「いい印象」がお客さんの中に残るのではないでしょうか。

高齢化社会における省人化の取り組みの必要性

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「接客業務でレジは省人化しやすい」ということは、お分かりいただけたと思います。ですが、セルフレジや券売機の導入だってただじゃありません。今、

「まあ、今は人手もいないわけじゃないし、まだいいかな」

と思っている方も、決して少なくないと思います。

しかし、高齢化が進んできている日本で、人手不足はすでに深刻な問題となっています。蔓延している問題も山積みです。冒頭でも話した通り、ワンオペ、低賃金、ブラックバイト、最近ではカスハラ(カスタマーハラスメント)という言葉が取り沙汰され、接客業務に人手が集まりにくい現状なのは、現場にいる方が一番お分かりだと思います。

この状況を打開するには、どうすればいいのか。

すでに多くの小売店や飲食店が、様々な施策に取り組んでいます。

今以上に初期費用をかけたくなければ、外国人労働者を雇うという方法があります。厚生労働省によると、日本で就労している外国人は2018年10月時点で146万人に到達。労働者の50人に1人が外国人なのです。UPCにも外国人社員はたくさんいますし、都内の大手コンビニチェーンだと、店員が全員外国人という光景も珍しくありません。

もし、皆さんが「外国語がしゃべれる店員に海外からのお客さんをもてなしてほしい」というのであれば、きっと彼らとうまく働くことができるでしょう。しかし、それを達成するには相応に支払わなければならない時間と労力が必要となります。もしその雇用に「日本人バイト店員の補充」以外の明確な目的がなければ、費用対効果が見合わないかもしれません。

このような接客業務に携わる外国人労働者は、多くが留学生です。なので多少は日本語を勉強してきていますが、日本人と全く同じように日本語を理解できる人はそう多くありません。また、日本式の接客対応に関する知識がない人もいます。店側はまず、そんな彼らを育成しなければなりません。

仮に、人員を割いてお客さんにも大目に見てもらいながら、きっちり指導を行ったとしましょう。努力の甲斐あって彼らが仕事を完璧にこなせるようになっても、ずっと日本にいる保証はありません。また、仮に日本へとどまるとしても、ずっと働いてくれる保証がないのは日本人と同じです。アルバイトの申し込み自体は増えても入れ替わりが激しければ、店側は何度も指導を行う必要があります。

さて、肝心のコストパフォーマンスはどうなるのか? 東京都の最低賃金は1013円。飲食店であれば、最も忙しいランチタイム3時間+ディナータイム3時間に最も人手が必要です。これらを条件に週5日、一年間を52週と考え、年末年始も含めて仮に3年間働いてもらうとすると、いったいいくらになるでしょう?

1013×6=6078円/日、これが5日で30390円/週、121560円/月、1年間で約158万円。3年間で、合計約474万円のお給料が発生する計算です。

この額は、果たして省人化のためのレジシステムを導入した時の経費と、どれほどの差があると思いますか?

券売機であれば、従来のボタン式だと1台約60~145万円、タッチパネル式だと1台約124~200万円が相場です。セルフレジは、先ほども述べたように約105万~500万円。よほど高機能を求めない限りは、アルバイトを雇わなくても3年で元が取れてしまいます。維持費や電気代などはかかりますが、人間だって交通費や保険料、賄い料理が必要なこともあります。なにより、券売機やセルフレジは、やろうと思えば24時間365日稼働させることが可能です。

もちろん、これはあくまで数字上の話であり、実際は接客の質の変化や環境整備など、さまざまなハードルが存在しています。それに、外国人と共に働くことで得られる知見や交流を価値ととらえるのなら、単にお金だけで選択肢を切り捨てるのは時期尚早かもしれません。システム導入への敷居が高いと感じているならば、世の中にはセルフレジや券売機より安くすむ事前注文サービスやセルフオーダーサービスも存在しています。

いずれにせよ、人手不足でお悩みの方は求人広告ヘの申し込みを待ち続けるだけでなく、「省人化」という解決策を一度検討してみてもよいのではないでしょうか。

おわりに

「省人化」の効き目があるのは、今ある店舗だけではありません。これから新しくお店を始めたいけど人手が全く足りない……という場合であっても、省人化の方法を知っていればこの問題を解決することができます。はじめから店の中にシステムを組み込んでしまえば、求人を出さずに済むかもしれません。極端な話、調理場以外を全自動にして一人でもお店が回ってしまう――技術は、そんなところまで進歩してきています。

2030年問題と呼ばれているように、労働者人口の減少が問題視されている日本。一部コンビニチェーンなどでは高齢者の再雇用も視野に入れた採用活動を行っています。しかし、人材育成のリソースが足りていないお店や高齢者雇用が難しいお店では、やみくもに働いてくれる人を探し続けるより、「業務自動化による省人化」を検討したほうがいいのかもしれません。

私たちユニヴァ・ペイキャストも、レジ業務と無関係ではありません。特にインバウンド向けのサービスを展開するうえで、「言葉・文化の壁」は課題のひとつです。自動レジや事前注文・決済サービスの中には、多言語対応をしているものもあります。当社でも、ご利用いただいている皆様と海外からのお客様との間に生まれる壁を少しでも削れるよう、様々な海外決済サービスブランドの一本化を目指しています。

人で賄いきれない部分を代行してくれるシステムと上手に付き合って、前向きに2030年を迎えたいですね。

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筆者プロフィール

teatime

広報担当 無糖ティータイム

今年度の新卒のひとりだが、社長に「5年目かと思った」メンター社員に「1年目に見えない」と言われ、自分でも「もしかして気づいていないだけで3年目なのかもしれない」と思い始めている。

最近の出来事:UPCの忘年会は本年度入社の社員が取り仕切るので、自分もスライド・動画作成に取り組みました。最後のページにこっそり、今年話題をさらったあの実写映画コラを入れておきましたが、誰にも気づいてもらえなかったです。